都市伝説|京都府・京都市東山区
六道の辻——小野篁の冥府通い
伝承の範囲
六道珍皇寺(東山区小松町)境内に「冥土通いの井戸」が現存。近隣の嵯峨薬師寺(福正寺)に「黄泉がえりの井戸」があるとされる
- 記録の扱い
- 伝承・都市伝説として記録
- 参照情報
- 2件
- 最終確認
- 2026-07-09
お盆になると、六道珍皇寺には「六道まいり」で先祖の霊を迎える人々が集まる。この行事は室町時代の頃から続いているとされ、寺の名にもなっている「六道の辻」という古い呼び名の重みを物語っている。
六道とは仏教が説く死後の行き先——地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天——であり、平安の頃からこの辻はその全てへの分かれ道と信じられてきた。葬列はここを通って鳥辺野へ向かい、死者はここから次の世界へ旅立つとされた。
この場所に結びつく伝承の中でも際立つのが、平安の官人・小野篁(802〜853年)の冥府通いだ。篁は昼は朝廷に仕え、夜になると境内の井戸を通って冥界へ下り、閻魔大王の裁判を手伝っていたという。『江談抄』や『今昔物語集』にこの話が収められていることから、近世に作られた俗説ではないことがわかる。反骨の人物として知られた篁の実像が、この伝説を引き寄せた面もあるのだろう。
篁が冥界から戻る際に使ったとされるもう一つの井戸は、嵯峨薬師寺の旧境内から見つかったとも伝わる。行きと帰りで別の井戸を使うという設定に、あの世との行き来を一方通行にする語りの工夫が透けて見える。伝説と信仰と年中行事が幾重にも重なるこの一帯は、この世とその先を隔てる線が、京都の中でもとりわけ薄い場所だ。