都市伝説|北海道・登別市
登別地獄谷の湯鬼神
伝承の範囲
登別市・登別温泉。日和山の爆裂火口群。現在は温泉観光地として整備
- 記録の扱い
- 伝承・都市伝説として記録
- 参照情報
- 2件
- 最終確認
- 2026-07-09
硫黄の匂いが立ちこめる谷に足を踏み入れると、まず息が詰まる。登別温泉の背後に広がる地獄谷は日和山の爆裂によって生まれた地形で、無数の噴気孔と熱泥の湧出口が荒涼とした景観をつくっている。煮えたぎる湯と噴き上がる蒸気の光景から「鬼の棲む地獄」という呼び名が明治期に定着し、百年以上を経た今もその印象は変わらない。
地元の伝説では、かつてこの地に住み人々に害をなしていた鬼たちは、蝦夷の神の怒りを受けて温泉の湯を守る「湯鬼神」として生きることを命じられたとされる。以来、鬼たちは地獄谷から湧く湯を護り、訪れる者の厄を引き受ける役目を担っているという。年に数回、地獄の釜のふたが開いて閻魔大王が鬼を引き連れ温泉街を訪れるという語りは、今も続く祭りの由来のひとつになっている。
夜の地獄谷は昼間とまるで違う顔を見せる。照明に浮かび上がる噴気と霧が地面を覆い、足元からは熱気が立ちのぼる。この光景を前にして「鬼の話も嘘ではない気がした」と口にする者は今も後を絶たない。
恐怖の対象を守り神へと転じさせるこの物語の構造は、荒々しい自然と折り合いをつけるための知恵でもあったのだろう。硫黄の匂いに包まれたこの谷では、その知恵が今も現役で働いている。